(ある穏やかな昼下がり)
(少し散らかり気味な執務室の中、年若いボスの前で、一人の少女が…まだ限りなく子供の域に近い少女が、手にした報告書を読み上げている)
(書類に目を落とし、時折相槌を打ちながらそれを聞いていたボスが、ふと瞬きをして顔を上げる。)




ばん!と勢い良くドアが開いて、報告を行っていたラルはびくりと後ろを振り返った。報告を受けている綱吉も、その横に控える獄寺も、見るまでもなく来訪者が誰かを悟った。このボンゴレ十代目の執務室の扉をこんな調子で開く人物は、ボンゴレには二人しかいない。そのうち一人は現在、本業の試合を控えてジムに詰めっきりだ。だから該当者は自動的に一人に絞られる。


「ツナ、久し振りー!」


そして響いてきた声は予想にたがわず、獄寺言うところの『脳天気な野球馬鹿』、山本武のものだった。久々に会うその声の主に、綱吉はぱっと相好を綻ばせ、ラルは露骨に眉を顰めた。
「待ってたよ山本、わざわざごめんね」
「いんや、俺も丁度暇になったところだし…。お、ラル!お前も久し振りだな」
「――久し振りって、たった三ヶ月だ」
「ははっ、三ヶ月は結構長いぞー」
にこにこにこ、と、屈託無い笑顔をを浮かべて山本はツナの前まで――ラルの横まで歩み寄り、わしわし、と無造作に彼女の黒髪をかき混ぜた。ラルは思わず身構え、続いて臨戦態勢に移ろうとする。……来る!
だが逃げる間もあらばこそ。さっと差し伸ばされた手に、彼女の体は軽々抱き上げられてしまう。傍から見れば「高い高い」をしているようなものだ。
「うん、ラル、また大きくなったな」
「は、離せ!この馬鹿山!」
「それにちょっと女の子らしくなった」
「な!」
その言葉にラルが絶句する。顔半分を覆うサングラスから僅かに覗く頬と耳元が、見る間に真っ赤に染まった。
「山本、女の子にそれはセクハラだよ」
「え、そうか?」
そうだったかごめんな?と、今度はラルに向けて謝って、山本は漸くラルを床に下ろした。下ろされたまま俯いているラルの耳はまだ真っ赤なままで、それが横から見ていてとても微笑ましい。
ラルが山本に淡い恋心を抱いている事は、ボンゴレの一部ではもう有名な話だ。気づいていないのは恐らく、当の本人であるラルと山本だけだろう。二人の話題はボンゴレの中でよく、悪意の無い噂話と酒の肴の種になっていた。

山本にとってラルは「なりそこないのアルコバレーノ」でも「ボンゴレの有力な戦闘員」でもない。まだ子供と少女の間の、ひとりの女の子だ。山本はいつもそうやってラルをラルのまま扱う。ラルだけでなくて、リボーンもコロネロもスカルも。……彼らを皆、彼らのままとして扱う。
山本は昔からそうだった。綱吉がマフィアのボスでも、ディーノがマフィアのボスでも、それはいつでも変わらなかった。山本武は、そういう男なのだった。
そしてそれが、彼が皆を惹き付けてやまない要因のひとつだった。


失礼します、とまだ赤い耳朶のままラルは部屋を退出していった。その後ろ姿を見送って、綱吉はちらりと山本に目を向ける。睨むというには弱く、でも見やるというには意味ありげな視線に気付いて山本は振り返り首を傾げた。それに大仰に溜息をついて、綱吉は半ば愚痴のように言葉を投げかける。
「……あんまりラルを子供扱いしないあげてよ」
「? だってまだ子供だろ」
心底不思議そうに問い返す山本に、再び溜息が漏れた。十一歳。確かに、大人ではないだろう。だが子供と断定できる年でもない。アルコバレーノに類するものであるラルなら、尚更だ。
(十一歳ね…)
自分たちが出会ったのが十三歳。あの頃の自分たちは子供だったろうか?周りの大人が思うよりずっと、子供で無かったのじゃなかったか?

(――まあ、いつまでたっても大人になりきらない人間もいるんだけど)
その典型の目の前の親友は、未だにきょとんした顔をしている。
歳月を重ね、経験を重ね、人の気持ちの機微にも敏くなり、人を上手く動かす事にも慣れたけれど ――こういう問題ばっかりは、どうしようも。



「…これじゃ、先が思いやられるよなあ」
「……え、何?何がだよツナ」
「いーや、こっちの話」
「??」
「山本、またお土産買ってきたんだろ?アメリカと日本の」

困惑顔の山本に向けてにっこりと笑って、ひとまず綱吉は、その場を大人らしく濁すことにした。

「お茶でもしようか。ラルを呼び返してさ。」









標的138からの突発妄想。
音速で山本←ラルが頭の中を駆け抜けて行きました
素直じゃないちいちゃな女の子と猫可愛がりする山本!!萌える!!

どうせマフィアになってしまうなら、笹川兄にはボクシングとマフィア両立してほしいです
山本には大リーガーとマフィア両立してほしいです
山本はアルコバレーノたちのお兄ちゃんでお母さんで人気者でいてほしいです
ほのぼのマフィアでいてほしいです

そんな願望が入り混じってます
小説未満のつもりだったのが、長くなったのでこちらに。





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