最後の戦いにに呼ばれたのは、今までこの学校でバトルしてきた人間、全員だった。
試合の途中で消えた黒いチビも、病院にいたはずのツナんちのチビも、目の前で撃たれて血まみれになって運ばれていったサングラスの男でさえも、そこにはいた。
――だから、思わず訊いちまったんだ。

『…スクアーロは…?』

そして返ってきた答えは、おれがまだ持ち続けていた小さな希望を、今度こそ、粉々にくだくものだった。




(…寒い…)
さっきまでは体の中から焼けてるんじゃないかと思うくらいに、熱くて熱くて苦しかったのに、今はそれが嘘みたいにひいていた。その代わり、体の端のほうからじわじわと、凍えるみたいな寒さが上ってきている。もう足や指先の感覚はなくなって、動かす事も無理みたいだった。
それでも、顔の横にある手首のテレビから、他の奴らの声は聞こえる。獄寺の声、笹川先輩の声――そしてツナの声。何度も何度も、おれの名前を呼んでいる。
(そんな、泣きそうな声、出すなよ)
答えて安心させてやりたいんだけど、口の中はカラカラで、自分が息をしてるかどうかもわからないくらいだ。そして次第に、その声もだんだん遠くなっていく。

(…ひょっとして、死んじまうのかな)
ぼんやりと思った。
なぜだろう、不思議と怖いとは思わなかった。ただ、みんなに悪ぃな、というのと、親父ゴメンな、というのと、あと。


(ゴメン、スクアーロ)
あんたに助けてもらった命だった。
明らかに実力ではおれが負けてた試合で、でもおれが勝っちゃって。おれは倒れて動けないあんたを守らなければならなかったのに、それができなくては意味が無かったのに、それどころか、あんたに命を救われた。

そして、あんたは



(…ゴメン……)
ほんと情けねーよな、おれ。あんたが助けてくれたこの場所で、毒なんかにやられて、何やってんだろな。殴られても文句言えねーって。もう好きなだけ殴っていいって。
だからさ
(…どーせだから、迎えに来てくんねーかな)
ちょっと虫の良すぎるお願いかな。でもなんか、死んだあとって暇そうだし。キャッチボールも、相手がいなきゃできねーし。おれ実は結構寂しがりだし。
それにおれ、あんたと案外気が合いそうな気がするし。
もっと色々、ちゃんと向き合って、いっぱい話してみたかったし。



『ゔぉ゙ぉ゙い!!お前、こんなところで何やってやがる!』

とりとめのない頭の中の呟きが、その声で断ち切られた。
ずっと焦がれていた濁点の多い声に、おれはちょっと苦笑した。死んでもかわんねーのな、その喋り方。

嬉しかった。

(あーやっぱり、来てくれたのな)
(ごめん、後でいっぱい謝るから)
…だから、ちょっと触らせてくんねーかな?
死ぬ前の空耳とか、冗談はよしてくれよ?

そう思ったとき、ほとんど麻痺してる手首に、微かに、でも確かに、ごわごわした皮の感触がした。
…スクアーロの手袋だ。
(――何だよ)
(暖かいんじゃん、あんたの手)
『…この、大甘大馬鹿野郎がっ!』
(…はは、ほんと、スクアーロだな…)


ちくりとした痛みと共に、急に体全体が軽くなった気がした。
手首にスクアーロの暖かさを感じながら、何だか凄く安心した気分で、おれは意識を手放した。







解毒前の妄想その1でした





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