「てめえ、何のつもりだ」



倒れた男の首元にぐさりと剣先を突きたてて、スクアーロは不機嫌そうに眉を顰めた。
土と血に塗れて転がる男は、ただ静かにスクアーロを見上げるだけだ。その静けさに余計苛立ちが募って、いっそこのまま首を刎ねてやろうかという考えが脳裏を過ぎったが、堪えた。これは暗殺ではない。これの目的は殺しではない。

「……俺が気づかないと高くくってやがんのか」
「――何のことだ」

相変わらず感情の読めない声、感情の読めない表情。舌打ちをして荒々しく剣を抜き、もう片側の手で勢いよくスクアーロは男の胸倉を掴みあげた。体のあちこちに傷を受け、重傷と呼んでも差し支えない状態にも関わらず、男は苦痛の呻きひとつ上げなかった。自分の力を発揮する気配も見せずに一方的に叩きのめされながら、何一つ顔に浮かべず、言葉も出さない。……その様は、長く暗殺稼業に身を置いているスクアーロにとっても底知れない不気味さと不快感を感じさせた。ただひとつ彼にとって確かなのは、この男によって自分の覚悟とプライドが、加えて今まで自分が倒してきた剣士たちの覚悟とプライドさえも、踏みにじられたということだった。そしてその一方で、この剣士も、剣士としてのプライドを捨てたのだということだった。

(畜生、胸糞わりぃ)

投げ捨てるように男の襟首を離し、遠くで様子を伺うルッスーリアに軽く撤収の合図を送る。爽快感も何もなく、心の底に滓が淀んだような勝利ではあったが、何にせよ目的は達せられた。男の事情など聞く気はしなかった。
……だが、ひとつだけ言って置かなければならないことがあった。

「――てめぇが何企んでんだかは知らねえがな、甘く見んじゃねぇぜ」
「……、お前をか」
「バかが、てめぇが俺を甘く見てることなんざ判ってんだよ」
嘲るように口を歪めたあと、スクアーロは低く声を落とした



「俺の後に出る剣士をだ」



その言葉に、僅かに男の目が揺らいだ。数秒の間をおいて、男は初めて自分から口を開いた。
「――お前は、最強の、剣帝の座を欲していたのではないのか」
「はっ、剣帝か」
掠れた問いかけに、今度こそ嘲りそのものを込めて、スクアーロは笑った。
「……んな肩書きはどうだっていいんだよ」

言い捨てて背を向ける。不審気な視線に、少しだけ溜飲が下がった。
そうだ、分かる訳がない。目的が何であれ、真の意味で剣を捨てたこの男に分かるはずがない。剣士としてせめぎ合い、剣を通して語ることを放棄したこの男に、理解できるはずもない。
これの目的は、殺しではない。最強の肩書きを得るためでもない。




これはメッセージだ。
ただ一人あの男を、こちら側に引きずり込むための。












幻騎士さん、剣士としてあの姿勢は良くないよね!と思ったので。
あとスクアーロは本気をだしてない幻騎士さんに気づいてただろうなーと。
ついでに、スクアーロはあんまり剣帝の座自体には拘り無さそうだなーという
前々からの疑問があったのでそこらへん纏めた感じで…



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