山本は結構不器用だ。

ネクタイを締めてこないのも、堅苦しいのが嫌だからと言ったりしてるけど。実はあまりうまく結ぶ事ができないせいでもあるんだってことを、俺は知ってる。昼ごはんを食べる時、お父さんが持たせてくれたお弁当の結び目が堅くて、解くのに苦労してたりするのも知ってる。放課後にお菓子を食べようとする時も、いつも袋を真ん中からぱりっときれいに開けることができなくて、へにょりと眉毛が下がるのを知っている。


ほら、今も。


「ツナあ」
なんとも情けない声で呼ばれて見ると、山本は牛乳を(ビン入りのやつだ。山本曰くパックの牛乳は中身に紙の臭いが移ってしまうから、選ぶなら牛乳は断然ビン入りに限る、らしい。…おれには違いがよくわからないけど)手にして、しょんぼりした顔でこっちを見ていた。
今は昼休み。おれ達はお決まりの屋上に出て昼ごはんだ。獄寺くんは珍しく寝坊して朝に買い損ねたとかで、四時限目が終わってから購買に出かけていった。……でも、今の時間じゃ何かあっても残り物だよね。ちゃんと買えればいいんだけど。そんなことを考えつつ、おれは山本に向き直る。
「あ。また?」
「うーん、またなのな」
手を伸ばしてビンを受け取った。ビンの口の封をしているキャップは、表面が見事に剥げてしまっている。山本は決まり悪げに、へろへろに剥がれたキャップの表面部分を摘んでちまちま弄っていた。背の高い山本がそういう仕草をすると、何だかアンバランスでそこが結構かわいい。絶対口には出さないけど。


山本は野球をやっているからか、爪をいつもこれ以上無いってほど、きっちり短く切っている。そのせいなのか、それともやっぱり不器用が災いしているのか。ビン牛乳を飲むときは、いつもキャップを開けるのに苦労している。今日みたいにキャップの表面だけ剥がしてしまうのはまだいいほうで、下手をすると力加減を誤って、キャップごと指を牛乳に突っ込んだりもする。そうしてやっぱりへにょりと眉毛を下げて、決まり悪そうに笑うのだ。
野球でホームランを決めて弾ける笑顔も、リボーンやランボを相手にしてる時のおおらかな笑顔も、授業中に答えを間違えて浮かべる照れ笑いも好きだけれど。おれはそのちょっと眉の下がった笑顔が一番好きで、それと一緒に山本の意外な不器用さも好きで――とても大切に思ってる。
絶対口には出さないけど。


薄くなった蓋をぱかんと開けて、はいどうぞ、と山本に差し出した。ありがとうな、と受け取って、山本はぱちぱち目を瞬かせた。
「ツナ、開けんの上手いよなー。俺いっつも失敗するけど、ツナ失敗したことないもんな」
「山本爪短いもん。それじゃ開けにくいよ」
でも毎日挑戦してたら、そのうちうまくなるんじゃないの?そう言ったら山本はうーんと首を傾げた。
「んー、そう思ってたんだけどな。結局小学校の時からずっとなんねーなー」
それにさ、と、おれの好きな笑顔を浮かべる。ちょっと眉の下がった笑顔。
「最近、ツナに開けてもらってばっかりだからさ。おれ下手になる一方なのな。ツナいなくなっちゃったら困るな」

「……いなくなんて、なんないよ」

ほんの一瞬遅れた言葉にどれだけの気持ちが詰まってるかなんて、山本はきっとずっと知らないままだろう。
隣で授業を受けて。隣で昼ごはんを食べて。隣で補習を受けて。隣で肩を並べて帰って。どれもこれもほんの小さな日常の、ささやかなひとコマだけど、おれにとっては他の何にも代えられない、掛け替えの無い時間だ。
沢山の笑顔を見て。沢山の不器用な仕草を見つけて。いつまでもそんな時間が続けばいいなんて。絶対口には出さないけど、おれはいつもそう思ってるんだ。



「ん、そうだな!」
わかってるのかわかってないのか…まあ解ってないんだけど。
でもにかりと山本が笑ってくれるから、おれも笑って彼に頷いた。



 今はそう、この時間が続いてくれるなら、それでいいんだ。











テーマ・自分だけが知ってる山本
ツナ山の、ほの暗くて切なげで青春な感じが好きです




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