5/7(lunedi)


「ボンゴレの山本武と、交際する事になったぜぇ!」

 今日、僕達のアジト(と言っても借上げてるホテルの一室なんだけど)に戻るなり、妙に力んでそうスクアーロが宣言した。
 何やら本人はやたら意気込んだ調子だったんだけど、僕も含めてみんなの反応は結、まあ冷めたものだった。僕としては個人的に、今更この鮫は何を言ってるんだろうって気分。 じゃあ今まで、やたらいそいそとあの雨の守護者の家に行ったり待ち合わせたりして、仲良さそうに剣の稽古しちゃったりしてたのは一体何だったのさ。アジトに戻らず、そのままあいつの家に泊まったことだってある気がするんだけど?
 そんな中で唯一キャーキャー喜んでたのがルッスーリアで、「よくやったわ〜スクアーロ!武クンいい子だものね!あと3年はかかると踏んでたけど思い切ったわね、そうでなきゃ!!」とはしゃいでいた。さらには「ちょっとこれは武君のほうも調査が必要よね!」と言ってアジトを飛びしていってしまった。きっとあれは今日中には戻らないね。
 レヴィはもともとボスに関する話以外はほぼ無視、というか無頓着だし、ベルは「あんたと付き合うなんてあっちの雨の守護者もよっぽど変わり者か、あんたと同類のアホだったんだね。まあ賢そうにも見えなかったけどさ」とコメントして後はナイフの手入れに勤しみ、ボスはと言えば、興味無さそうにスクアーロを見遣った後、「……それで一昨日の始末の件はどうなった」と淡々と口にして、まだ片付いてないと報告したスクアーロにウイスキーの壜をヒットさせた。まあつまり、本当にいつもと変わらない日常ってことだ。スクアーロの意気込みが空回りするのも含めて。
僕にとっても何か得するような話でもないし、興味は無いんだけど。でもひょっとしたら今後スクアーロやボンゴレの弱みを握ったりするのには役立つかもしれない。記憶には留めておこうと思う。





5/8(martedi)

 朝、いつものようにめいめいがそれぞれの仕事を片付けに出て行ったあと、入れ違いであのリボーンがアジトにやって来た。
 僕はリビングで収支計算してて、一人だけ残ってたんだけど、その来客にはさすがに驚いた。リボーンは意味もなく他所に顔を出すようなタイプじゃないし、正直なところ、何かまた面倒な事が起きたのかとちょっと警戒した。リボーンが自ら動くなんて、余程の事だ。
 で、「何の用?」と尋ねたら、リボーンは室内を一瞥して一言「スクアーロはどこだ」と言い放った。あのカス鮫がまた何かやらかしたのかと思って「あいつなら今外に出てるけど」と教えてやったら、リボーンは口端を歪めて「…命拾いしたな」と呟いた。いよいよ訳が解らなくなって「それで結局何の用なのさ」と繰り返したら、「ちょっと忠告を一、二発撃ち込んどいてやろうと思っただけだ」と、何とも物騒な返答が返ってきた。
 その答えでも今一状況は不明のままだったけど、リボーンが去り際に残した「うちの雨の守護者を大切に扱えと言っとけ」という言葉で全て謎が解けた。つまりあいつは、スクアーロと付き合い始めたという向こうの雨の守護者が心配でわざわざここまで足を運んだってことだ。リボーンがこんな風に他人に執着するのは本当に珍しくて、唖然としてしまった。僕らしくもなく。
 昼過ぎには昨日アジトを飛び出していったルッスーリアが帰って来たけど、こっちは一見して非常に解りやすく疲れ切っていた。こいつが他人を疲れさせるのはいつもの事だけど、他人に疲れさせられてるのは凄く貴重だ。ちょっと興味が沸いて尋ねてみたら、向こうの雨の守護者を捕まえて話してきた、とのことだった。曰く、「あの子相当手強いわよ、スクアーロのことどう思うのって聞いたら、『髪長いよなー』って!しかも『それだけ?』って聞いたら『何で長いのかなって思う』って言うのよ!しかもあれ、どう見ても素! ありえないわ…。スクアーロどうやってあの子口説いたのかしら、口説いた気になってるだけじゃないかしら、ひょっとして遊ばれてるんじゃないかしら…」と、最後の方は半ば独り言みたいにぶつぶつ話していた。…向こうの雨の守護者って、刀使う黒髪のひょろっとした奴だよね、なんかぽやぽやした感じの人間だったからそんな心配の必要は無いと思うんだけど。
 話してるうちにルッスーリアは勢いがついてきたらしく、「こうなったら本人の周辺に直接確かめるしかないわね!」と鼻息荒く言い出した。で、僕に向かって「マーモン!ボンゴレ十代目の家の電話番号の粘写お願い!」と。…ま、そう来ると思ってたけど。
 毎度あり、ってポケットから電卓を取り出してぽんぽん叩いて金額を見せたら「ちょっと、また値上がりしたの潤vと苦情を言われた。何言ってるのボンゴレ十代目の実家だよ、割高なの当たり前でしょ、そう返してやったら「スクアーロのご祝儀と思ってちょっと安くしなさいよ」とわけのわからない理由を付けられて、しかもそれを押し通されてしまった。全く腹が立つったら。
 でもまあ、リボーンの件といいルッスーリアの件といい、少し僕も向こうの雨の守護者・山本武に会ってみたくなった。これで本当にスクアーロが遊ばれてる状態だったらいい笑いものなんだけど。





5/13 (domenica)

 朝からやたら騒がしい来客があった。キャバッローネの跳ね馬がアジトに押しかけてきたんだ。つい先日のリボーンといい、最近ここには珍客が多い。
 今回の跳ね馬も、目当てはスクアーロだった。スクアーロの旧友という話の金髪男は、まだアジトにいたスクアーロを捕まえるなり、いきなり最高潮に達してるレベルのテンションで「お前あの山本を落としたんだって?!やるなーこのやろー!!」と背中をどつき、軽く呼吸困難に陥っているスクアーロの首元を掴んで「今日はおれが奢るぞ!よし、折角だから山本の家に行って一番豪勢な寿司食おうぜ!あれは旨いぞ!」と一人勝手に話を進めて、襟首ひっつかんだそのままずるずると外に出て行こうとした。
 例の山本の家!しかもタダで寿司!!願ってもないチャンスに内心の『ラッキー!』を押し隠しながら、跳ね馬に「それ僕も連れてってよ。スクアーロの相手、ちゃんと確認しておきたいしさ」と声を掛けた。案の定跳ね馬は軽く「いいぞ」と答えて、それを聞きつけたベルまでもが「あーオレも寿司食う寿司!」と名乗りを上げたので、結局僕達4人とキャバッローネの部下と5人で、その目的の寿司屋に向かうことになった。
 店の主人はディーノとスクアーロを見るなり相好を崩し、二階に向けて「武、鮫太とお友達が来たぞ!」と声を掛けた。『鮫太』なんて珍妙な呼ばれ方をしているのがスクアーロだと知って笑いをこらえてたら、足音がして噂の主である山本武が「スクアーロ!それにディーノさんも、いらっしゃい!」と弾んだ声で顔を出した。すっかり顔なじみらしい跳ね馬が、祝いだから豪勢なの頼む!と注文して、僕たちは暫くは寿司を食べる事に専念した。寿司屋自体は地味で小さくて貧相な作りだったけど、味はまあ、確かに良かった。イタリアでも下町のちっちゃな食堂が驚くほど美味しいパスタを出す事がよくあるし、こういうのは全世界共通なんだろうね。

 …で、食べてるうちに目的のもう半分の方が気になりだした。顔見知り相手ってこともあるのか、山本武はカウンターの中、スクアーロの前に立って店の手伝いをしてたんだけど、その山本とスクアーロのやり取りが猛烈に気になりだした。
やり取りっていっても言葉のやり取りじゃない。山本がひょいと皿を出せば、スクアーロが無言でカウンターにあった醤油を注ぐ。ひょいとスクアーロが空になった湯飲みを差し出せば、山本が無言でお茶を注ぐ(しかも心得たみたいに僕達とは違う冷たいやつだ)。息が合ってるのか何なのか知らないけど、お互いそれが当然みたいに一連の動作を行ってて、僕の頭の中はそのうち目の前の老夫婦よろしくなやりとりと何なのこいつら、という思いとで埋められて、折角の寿司の味も飛んでいった。無駄極まりない。
 隣にいるベルもどうやら同じことに気づいたらしくて、2人して並んで黙々と寿司を噛んでいたら、当の山本がふとこっちを向いて、「ぼーず、スクアーロの同僚だったよな?そっちの人も」と話しかけてきた。
 ぼーず、と呼ばれたのは僕で、そっちの人と呼ばれたのはベルだ。色々言われた内容に不満はありつつも不承不承頷いたら、山本武はそっか、と嬉しそうに深く頷いた。で。「えっと、スクアーロのことよろしくな! こいつ、きっと無茶ばっかりしてると思うんだけど!」と、そんなことを言ってきた。何さそれ。しかも後ろから「余計なこと言ってんじゃねぇぞぉ!」とか言ってるスクアーロの声がまた、微妙に嬉しそうに聞こえたんだけど。…何なのさそれ。
 ――何だか、もう胸焼けする気分になって、僕とベルは目配せして連れ立って席を立って店を出た。しばらく二人で無言で歩いてたけど、だいたいお互いが何を考えているのかはわかった。要するに、何だか物凄く面白くなかった。アジトの前まで来た頃ベルが「こりゃー何か仕掛けてやんなきゃね」とにんまり笑って、僕はそれに心の底から同意した。
 このまま上手くいくなんて、つまらないにも程があるよね。





5/14(lunedi)

 昨日はあのまま自室に戻ったから、スクアーロがいつ帰って来たか知らなかったし顔もあわせなかったんだけど。今日の朝見たスクアーロは、見事に左側の頬を腫らしていた。
 皆が興味深々で注目する中で奴は憮然として押し黙ってたんだけど、その後入場してきたルッスーリアが、僕達が昨日帰った後に一体何があったのかを全部バラしてくれた。掻い摘んで言えば、あの後スクアーロは跳ね馬の挑発に乗って山本に強引にキスして、それが元で拳で殴られたと。…やっぱり呆れるほどの馬鹿だ。
 ルッスーリアはすっかり説教モードで、「相手はジャッポーネよ、しかも相当山本君古風なタイプよ!ほんとバカねえ」とくどくどとスクアーロに繰り返していた。横で聞いていたボスまでも「ああ、TPOを弁えないってのは全く救いようも無くバカだな」とどこか楽しそうに加わり、しばらくスクアーロは周りからバカバカ連呼されてた。まあ良くあることなんだけど。それにしても、ここんとこ急降下中だったボスの機嫌が良くなったのは非常に助かった。スクアーロが不在がちな今、僕の方にまでまでトバッチリが来たらたまんないからね。
 この調子ならベルと僕とが画策しなくても勝手に自然崩壊するかな、それはそれでつまらないなと思ってたら、言わなければいいのにルッスーリアが「あんたね、本気で武クンと付き合うつもりならちゃんと引きを覚えなきゃダメよ、あんた戦闘スタイルと一緒でいっつも押して押してのタイプなんだから、引くときは引いて謝る時は謝んなさい!」と嗜め始めた。スクアーロもいつになく神妙にそれを聞いていて、リビングは恋愛相談室状態になり始めたから僕は速攻退散した。やれやれだ。





5/17 (mercoledi) 

 ルッスーリアが余計な助言をしたせいで、昨日の夜にはもうすっかりスクアーロと山本武は仲直りまで漕ぎ着けてしまったみたいだ。全く簡単な連中だ。
 で、このまま元の鞘に納まってしまうのはすごくつまらないから、僕とベルの間で、前に言ってた計画を実行に移そうかって話になった。取り敢えずは品物を揃えなきゃいけないけど、ベルが暇に飽かしてインターネットで色んな通信販売のサイトを探し出してきたので、それもじきに到着するはずだしね。
 スクアーロを騙すのなんて赤ん坊の手を捻るよりも簡単だろうし、どういう結果になるか楽しみだ。





5/22 (luned)

 計画は不発だった。ルッスーリアが前に言ってたことは正しいみたいだ。山本武は思ってた以上に手強い。
 品物自体は(白いひらっひらのレース付きエプロンだ)、ちゃんと昼間には到着してた。その箱を片手に、僕は夕方帰ってきたスクアーロに「スクアーロ、お前ジャッポーネのカップルの間には『モエ』って習慣があるのを知ってる?」と言ってみた。勿論そんなの出まかせの嘘だから、当然スクアーロからは「知らねぇぞ」って返答。そこで僕は神妙な顔をして「何でも、付き合ってる相手にこういうものを着せたり付けたりして、そこで心が躍るかどうか――それをモエるって言うんだけど、それがあるかどうかで『相手への感情が本物か』を測るんだって」と尤もらしく講釈を述べた。
 案の定スクアーロはころりと騙されて、僕が渡した袋を手に取って山本の家に向かった。そこまでは見事に計画通り。後はエプロンを渡したスクアーロが再度山本武の鉄拳を食らうのみ、だったんだけど、スクアーロは落ち込んだ様子ではあるけど、鉄拳は食らわずに帰ってきた。その帰って来たスクアーロ曰く、「…モエなかったぞぉ」って。…つまり山本は別に頓着せずエプロンをつけたってことだ。とんだ予想外だよ。
 とりあえずネタはもうひとつある。残っているのは猫耳セット、多分エプロンより強烈なはずだ。明日、またスクアーロを焚きつけて挑戦してみよう。





5/23 (martedi)

 計画はまたもや不発だった。
 スクアーロは、今日はやたらやに下がった顔で帰って来た。どうやら猫耳はお気に召したらしい。……あーあ。スクアーロを喜ばすための計画じゃないんだけど、これ。
 とんだお金の無駄になっちゃったな…





5/24 (venerdi)

 僕とベルのアキハバラ計画は、引っ掛けたつもりの本人たちには全然無効だったけど、思わぬところに影響を及ぼしたらしい。
 ソファでルッスーリアが携帯メールをチェックしながら、心配そうに「十代目くん、なんだか様子がおかしいのよねー。いきなりスクアーロと武クンがつきあうの反対しだしてるの。どうしたのかしら?」と言っていた。多分ボンゴレ十代目が山本武から、あのとんでもないプレゼントの話を聞いたんだろう。それが常識的な反応ってもんだよ。(…それにしてもルッスーリアの奴、いつの間にあいつとメールアドレスの交換なんてしていたんだろう)
外堀の方から埋まりはじめたか!?と思ったんだけど、そのわくわくはルッスーリアの次の一言、「折角今度の日曜には初デートだっていうのに、気になっちゃうわよねー」で吹っ飛んだ。うわ、何なのそれ!何だかすごく順調にステップを踏んでるみたいで、猛烈につまらなくなってベルに愚痴りにいったら、にんまり笑ったベルにあっさり「そんなの、引っかきまわしてやりゃいーじゃん」と言われて解決した。そうか、むしろ考えようによっては弄り甲斐のある展開と言えなくもないか。
 でも、実は一つ問題があった。今回のデートの場所が遊園地で、入場するには金がかかるってことだ。僕は目的はどうあれ、たかがスクアーロ絡みでこれ以上自分の懐を痛めるなんて論外だったし、ベルもそれについては同感だったらしい。二人で頭を捻った結果、レヴィを引き込んで一緒に連れて行くことにした。アジトでレヴィが一人で居るときを見計らって、僕らの計画を大雑把に話して「あいつらが上手くいってスクアーロがいない時間が増えたら、またボスのストレス発散場所が減って苛々がつのるだろ」みたいなことを言ったら、思惑通り一発OK。ボスの名前を出したらレヴィを説き伏せることなんて楽勝だよ。
 あとは、とことんあの二人と二人の周囲を引っかきまわすだけだ。





5/26 (venerdi)
 朝からスクアーロとルッスーリアの姿が見えないなと思ってたら、夕方近くに二人はげっそりした顔とうきうきした顔を揃えて戻ってきた。げっそりがスクアーロでうきうきがルッスーリアだ、言うまでもなく。
 二人とも巨大な紙袋を抱えていて、何を買ってきたんだろうと思ったら、どうも明日のための服を買いに行った、らしい。うん、完全にルッスーリアの口実だね。僕も一度連れてかれたことあるけど、例え高額日給が出るとしたって二度と付き合いたくはないと思わされるショッピングツアーだった。自分のものを勝手に選んでればいいのに、隙あらばこっちにも持ってきて着せたり付けたり持たせたりするんだから。おまけに悪意が無いから余計性質が悪い。
 ルッスーリアはすっかり満足した様子で「これでファッションも完璧ねー」なんて言っていたけれど、その背後でスクアーロは紙袋ごとそのままクローゼットに直行させていて、僕は少しばかりほっとした。ルッスーリアの趣味は良く知ってる。……いくらなんでも明日、ラメ入りピンクの皮製ジャンパーと金色のパンツ履いたサングラスの男を尾行したりはしたくないからね。





5/27 (domenica)
 
 ――うん、何から書こうか。
 結論から言うと、計画はまたもや失敗だった。正確に言うなら、大失敗だった。
 そもそも、ベルが大幅に寝坊したのがまず良くなかったんだ。さらに遊園地の場所を誰もしっかり確認してなかったのと、ジャッポーネの道の混み具合を甘く見ていたのと、そんな諸々の要因が重なって、僕たちが目的地に着いたのはもう日が沈み始める頃だった。
 ひょっとして完全に無駄足かとも思ったんだけど、入場した正に目の前で運良く、二人が観覧車に乗り込もうとしてるのを見つけた。それで、僕達は今日のデートが一通り恙無く終了しかけてるんだということを悟った。観覧車なんて、もうイベントラストみたいなものじゃないか。
 このまま行かせてなるものかって気分で「レヴィ、雷!」と言ったら、レヴィも承知したもので、観覧車横の配電盤と思しき場所に即座に電撃を走らせた。これで観覧車は故障したはずだし、締めくくりがおじゃんになってまあちょっとはしてやったり、と思って振り返ったら、どっこい、観覧車はまだ動いていた。どうやら思った以上に頑丈な造りで、ショートするのに時間がかかったらしい。
 まさかと思って見守ってたら嫌な予感は的中し、観覧車はよりによって、二人の乗ってるボックスが天辺に来た辺りでストップした。……結局僕らはあいつらに、二人っきりの空間のお膳立てする結果になったってわけだ。馬鹿馬鹿しくて声も出ないままぼーっとしていたら、いつの間にかまた観覧車は動き出して、スクアーロと山本がもうしっかりすっかり出来上がった雰囲気でドアを開けて出てきた。…ご丁寧にもスクアーロはしっかり山本の体を支えるみたいにして。あーあ、一体中で何をしてきたのやら。
 げっそりしてアジトに戻ったら、ルッスーリアがその様子を見て「駄目ねえあんた達、何疲れ切ってるの?スクアーロのイキイキ具合を見習ってに恋でもしたらどーお?」とかのたまった。追い打ちもいい所だ。あれはイキイキって言うんじゃなくてデレデレって言うんだって返してやりたかったけど、その気力も起きなかった。
 …ほんと散々な1日だった。





7/23 (lunedi)

 朝、スクアーロが無駄に元気よく部屋から出てきたから、とりあえず僕はチェストの上からジャンプして後ろ頭にドロップキックをかました。突んのめってぎゃあぎゃあ喧しく怒鳴るスクアーロに、「ふん、昨日は恋人君と観覧車で随分のんびりしてたみたいじゃない」と皮肉を言ってやったら、「あぁ?てめぇ何を知ってんだ?」と不審気な顔をされた。……しまった。
 尾行して邪魔しようとしたなんて知られるのは癪だから「僕を何だと思ってんの?アルコバレーノに見抜けないことなんてないのさ」と誤魔化したら(こういうときアルコバレーノという言葉は便利だ)、スクアーロが幾分決まり悪げな顔で「…仕方ねえだろ、昨日の疲れが尾を引いててよ」と答えるから、僕は「ん?」と内心首をかしげた。話がどうも予測していたものと繋がらない。
 その表情をどう取ったのか、スクアーロは「言っておくがなぁ、寝るのに膝を貸すって言い出したのはあいつの方だぞ! 肩を貸したのもあいつが足が痛くて歩けねえっつうからだ!!」と聞いてもないのに重ねて弁解して、その言葉で僕は全てを理解した。
 つまり何?本当の所、一時間半止まってた観覧車の中でやってもらったのが所謂『膝枕』だけだったってこと? そして山本の足が痺れたからって、歩くのに手を貸してやってただけだったってこと?いや別に、決して何かを期待してたわけじゃないんだけれど、今時ハイスクールの生徒だってもうちょっとやることやるよ。一体どこまで甲斐性無しの鮫なんだ…!
 話を聞いてる内にアホらしくなって、僕はもう金輪際、この二人に関わらないことを決意した。残る問題はスクアーロ不在時のボスの苛々の捌け口だけど、まあ、これもきっと暫くはレヴィが喜んで引き受けるだろうから、もうそれでいいさ。
 
 とりあえず、今回分かったこと。
 『馬鹿同士の恋愛には口を出さないに限る』
 …それを学んだだけでも、僕は損はしなかった。――そう思っておくことにする。





2007夏発行・スク山アンソロ様への投稿物に加筆訂正。
スク山のお付き合い観察日記。マーモン視点
ツナ視点とセットになっております。



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