5月8日(火) 晴れ時々くもり 山本とスクアーロのことは、昨夜のうちにさっそくリボーンの情報網にひっかかったみたいだ。 朝からおれはリボーンの撃った銃声で目が覚めた…っていうより、無理矢理起こされたんだけど。朝一番に銃突きつけて「山本とスクアーロが付き合いだしたってのはほんとか」って、ほんと勘弁してくれよ…。まーあからさまにリボーンは山本のことヒイキしてたし、ちょっと予想はしてたんだけど。 それにしても一体どこから聞きつけたのかな…。面倒になるのがイヤでわざわざ黙ってたのになあ。 そのままほっといたら、リボーンがスクアーロを暗殺でもしに行きそうな気がしたから、おれはリボーンに「山本もすごく嬉しそうなんだし、絶対余計なことするなよ!」としつこいぐらい念を押しといた。リボーンはものすごく不満そうな顔をして、しまいには窓から出て行っちゃったんだけど、こればっかりはゆずれないよね。 学校から帰って来てもまだリボーンは帰ってなかったから、のんびり漫画読んでたら、おれ宛てに電話がかかってきて、誰かと思ったらルッスーリアからでびっくりした。どうやってうちの電話番号知ったんだろ。 電話は案の定、スクアーロと山本についてだったんだけど、いきなり「武クンってほんとにスクアーロのこと好きなの盾ワさか遊びだったりしないわよね」って言われて、すごくむかっとした。山本のこと良く知らないから、山本のあの嬉しそうな顔見てないからそんなことが言えるんだよな。 思わず「それは俺が言いたいよ!スクアーロほんとに山本のこと好きなの?!」って言ったら、ルッスーリアもむっとしたみたいで「まっ!あなたね、あのスクアーロがボスやみんなの前でお付き合い宣言したのよ!!『山本は俺のだからお前ら手を出すな』とか、もうそんなイキオイなのよ!」って怒られた。その他にも、「山本にもらった牛乳(1リットル)を毎日大事に一杯ずつ飲んでる」とか、「最近やたらと野球ニュースを熱心に見てる」とか、おれがもういいよごめんね、って言うまで、聞いてもいないことまでいっぱい教えてくれた。 ……何だか聞いててすごく頭が痛いというか、胸焼けしたっていうか。砂糖を吐きそうってこういう気分のことなのかな… でもルッスーリアのおかげで、スクアーロがほんとに山本のことが好きなんだってことは良くわかったから良かった。ほっとした。 今度、ルッスーリアのメールアドレスとか教えてもらおうかな。 なんか、またいい事教えてもらえるかもしれないし。 5月10日(木) 晴れ 放課後、昇降口のところでぐーぜん京子ちゃんのお兄さんに会った。 ちょっと思いついて、ルッスーリアのメールアドレスを知ってるか聞いてみたら、やっぱり知ってた。前にルッスーリアが家まで押しかけてきて、無理矢理登録していったらしい。頼んだらおれの携帯にメルアド転送してくれた。(お兄さんも携帯持ってたんだな…ちょっと驚いた) ちなみにお兄さんは、「ルッスーリア」って言っても最初わからなくて首をかしげてた。「あのグラサンの派手な…」と付け加えたら、「あああのオカマな!」ってすぐ分かったみたいだけど。 ちょっとだけ、ルッスーリアに同情したよ…。がんばれ。 5月13日(日) くもり時々雨 なんだか、ものすごーく疲れた一日だった。驚いてばっかりの一日だった気がする。 せっかくの休みだったんだけど、午前中は理科のテストの補習でおれは学校だった。(山本はおれより5点上で補習セーフだった。5点って大きいんだな…)。獄寺君が一緒に行くって言ってくれたけど、さすがに98点の人を付きあわせるのは悪いから断ったんだけど、そしたら補習の課題がめちゃくちゃ難しくって、あとからちょっと後悔した。 やっと家に帰ってのんびりできる!と思ったら、夕方山本から電話がかかってきて、何だかちょっと困ってる様子で「今、ツナのおじさんがうちの店来てるんだけど…」と言われて驚いた。ディーノさんが日本に来ているなんて、おれ全然知らなかったよ! でもディーノさんが竹寿司に行ってるだけにしては、やけに山本が困りきった感じだったから「ディーノさんどうかしたの?何かあったの?」って聞いたら、「おじさん、かなり酔っ払って一人じゃ帰れなさそうだから、ツナ迎えに来てくれないか?」って返事で脱力。居間に上げて寝かせようにも、山本のお父さんが急な用事で外に出てしまってて店から離れられなくて、頼みの綱のロマーリオさんはといえば、竹寿司に来てすぐに用事でお店を出ていっちゃったらしい。あーあ…。 とにかく山本んちにメーワクかけたままのわけにはいかないし、急いで竹寿司に向かったら、山本の言ったとおりディーノさんはそうとうできあがってる状態だった。ここでまた驚いたんだけど、カウンター席にいるディーノさんの隣になぜかスクアーロも座ってて、お店の扉を開けるなりすごい目でにらまれてびびった。 一緒にお酒飲んでる…というより一方的にディーノさんがスクアーロに絡んでる感じだし、いったいどうしちゃったのかこっそり山本に聞いたら、突然ディーノさんが「祝いだ!今日は俺のおごりだー!」って言ってスクアーロ引きずってお店に来たらしい。最初はおごりにつられてベルとマーモンも来てたんだけど、食べるだけ食べてさっさと帰ったんだって。(…ヴァリアーって実はけっこう貧乏だったりするんだろうか) 駆けつけたって言っても、おれもディーノさんがどこに泊まってるかとかロマーリオさんの連絡先とか知らないし、どうしようかと2人で頭を抱えてたら、とりあえずほっておいてたディーノさんたちの方がどうも雲行きが怪しくなってきた。何だかお説教くさい口調でディーノさんが、「お前、山本幸せにしてやれよ〜、ほんとにイイ奴なんだからよ〜、お前にはもったいないぜ〜」って何度もくり返して、スクアーロがそのたび「うぜぇ」とか「てめぇに言われることじゃねえ」とか律儀に返してたんだけど。そのうちそのやり取りに飽きたらしいディーノさんがぐるんと振り返って、今度は山本に「やまもとー、こいつこんな素直じゃねー弱鮫だけどさー、ほんとは悪い奴じゃねーんだよー頼んだぜー」と絡みだした。 で、それにムッとしたスクアーロが「うぉぉい!いい加減にしとけヘナチョコ!!」と怒鳴って、おれは横で見ててはらはらするばっかりだったんだけど。さすが山本は山本で、お茶をのっけたお盆片手にいつもみたいに「まーまー」と二人の間に仲裁に入った。 ……普通だったらそこでごたごたしたのはおしまい、ってなるんだよね。普通だったら。でも今日はお酒のせいか、それだけでは終わらなかった。ディーノさんが「ショーコ見せろよ〜ショーコ、お前鮫のくせに山本の事幸せにできる覚悟あるのか〜?」とかまた絡みだして、おれは正直『ディーノさん何言ってるのー!!』って青くなった。いーかげんスクアーロがキレて暴れだすんじゃないかと思っておそるおそる見たら、予想は外れた。何というか悪い方向に外れた。スクアーロはものすごくタチの悪い笑顔になってて、超直感とかじゃなくてどっちかっていえば生存本能からおれは『やばい!』って思った。 そんな表情のままスクアーロは鼻で笑って「じゃあ見せてやるぜぇ」と言い放って、いまいち事態が飲み込めずきょとんと横に突っ立ってた山本の腕を勢いよく引っ張って引きせた。そして、そのままの勢いで山本にキスをした。おれとディーノさんの目の前で! …あーもー!! ほんと思い出すだけでうわ―!っていうかぎゃ――ってなるっていうか!! だって目の前でだよ!親友とだよ! しかもこう、かわいー「ちゅっ!」て感じのキスじゃなくてこう深いし長い、何かいろいろ入ってそうなキス! さすがに驚いたらしい山本は、最初はなんかむーむー言いながらスクアーロのこと突っぱねようとしてたんだけど、そのうち力が抜けちゃったみたいで、最後の方は膝もかくんってなって、ほとんどスクアーロに抱えられてる状態になってしまった。実際時間にしたらどれぐらいだったのかなあ。すごく長い時間に感じたけど……。で、その長いキスの間、おれとディーノさんが何をしていたかというと、おれは二人を引きはがしたほうがいいのか、それとも見ないようにしとくべきなのかひたすらアワアワしてた。ディーノさんは、目を丸くしておおー!って感じに見物していた。何だかなあ… キスの後、ようやく山本を腕から解放してイスに座らせたスクアーロは、どうだ、となんだか勝ち誇った目をしてディーノさんを振り返ったんだけど、次の瞬間その体が吹っ飛んで、すごい音をたててカウンターに頭から突っ込んだ。その後ろに、さっきまでイスでぐったり気味だった山本が、涙目の真っ赤な顔で、はーはー荒い息をついて肩を怒らせて立っていた。そして一言、「スクアーロの馬鹿野郎っっ!!」とでっかい声で叫んで、まだふらついてる足取りで店から走り出ていってしまった。 …なんかめまぐるしく状況が変わってぼーぜんとしてるおれの横で、ディーノさんはカウンターに突っ込んだまま動かないスクアーロの肩をばんばん叩きながら「おー良くやった!しかと見た!めでてーよな!」とくり返して、そのまま突っ伏してぐうぐう寝入ってしまった。気づいたら店の中で起きてる人間はおれだけ…。山本のお父さんもまだ帰って来ないし、もうほんと、どうしようかと思っていたところに、用事を終えたらしいロマーリオさんが戻ってきた! 救いの神ってこのことだよー。 ディーノさんをロマーリオさんに任せて、スクアーロはとりあえずそのままほっとくことにして、おれは山本のお父さんが戻るまで店番をしたんだけど。…結局山本はおれが帰るころにも店には戻ってこなかった。 山本、大丈夫かな。ちょっと心配だ。 5月14日(月) くもり時々晴れ 朝学校に行く途中、獄寺くんと一緒になる前に山本に「きのうはごめんな」って決まり悪そうに謝られた。「店番ってほどのことしてないし、気にしないで」って答えたら、「それもだけど、あんな、へんなとこ見せちゃってごめんな」と返されて、それで山本が昨日のキスのこと言ってるんだとわかった。 何で謝るんだよとか、山本は悪くないでしょとか、頭に浮かんだことはいろいろあったんだけど。何より山本がキスシーンを『へんなとこ』って言ったのでおれはすごく心配になった。ひょっとして山本、実はスクアーロとのこと恋愛として考えてないんじゃ?とか…。だって、山本なら有り得そうだから。 思わず「スクアーロとキスするのイヤなの?」とものすごく直球な聞き方をしたら、山本はちょっと答えに詰まってから「…だって、あーゆーことは人前でするもんじゃないだろ」ともそもそ呟いた。あー、キス自体が嫌だったわけじゃないんだなってほっとするやら拍子抜けするやらだったんだけど、山本は結構本気で落ち込んだ顔をしてた。よっぽど人前でキスっていうのが山本にとってタブーだったんだな…。確かに恥ずかしいし、おれもそういうの好きじゃないけど。それとも嫌がってもやめてくれなかったのがショックだったのかな。 別にスクアーロを手助けしようってわけじゃないけど、しょんぼりへこんでる山本も見てられなくって、「スクアーロ、あれでもイタリアの人だから、やっぱり日本人と違うこといっぱいあるんじゃないのかな」とフォローしてみた。実際、外国の人って道端でもどこでもキスしてる気がするし、キスがあいさつみたいだったりするし……。「だから、それでスクアーロのこと嫌いって思うのはもったいないと思うな、だって山本はスクアーロのことが好きなんでしょ」と言ったら、山本は「うん」って何か吹っ切れたみたいに笑顔を見せてくれた。 やっぱり山本は笑ってる方がいいなあ。 5月16日(水) 晴れ 山本とスクアーロは、無事仲直りしたらしい。 「スクアーロの方から謝ってきてくれたのな」って、山本がすごく嬉しそうに報告しにきてくれた。(あのスクアーロが自分から謝るなんてなー。なんかすごいや) それにしても良かったー! すごくほっとした。…何だか、おれお母さんとか、保護者みたいな気分になってるかも、最近。 でもほんと、最近の山本見てるといいなーって思う。おれも京子ちゃんに死ぬ気で告白してみたらどうかなあと結構本気で考えたりしてるんだけど、何だか想像すればするほど失敗例しか頭に浮かばなくてちょっと寂しくなった。おれダメすぎる。 山本にイメトレの方法、教えてもらおうかな…… 5月22日(火) 晴れのちくもり 前の日記で「親友の恋に口を挟むような男になりたくない」とか書いたけど、あれ撤回。もう絶対撤回。山本がスクアーロと付き合うの、おれは全力で阻止したいよ! ていうか、阻止する!! 山本のために!! 今日の調理実習で、山本はいつものお店の名前入りの前掛けエプロンじゃなくて、白くてフリフリのレースがいっぱいついてるエプロンを持ってきた。男子は「似合わねー!!」って大爆笑で、女子は「かわいー!」ってきゃーきゃー騒いで、そんな感じにクラスの連中には大ウケで写メとかばちばち撮られてた。(山本がまたノリノリでポーズ取ったりするんだよなー) おれも最初は笑って見てたんだけど、何気なく「そのエプロンどうしたの?」って聞いたのが間違いだった。「もらったんだ」って答えになんかヤな予感はしたんだよ…。でもまさか、と思いながら「誰に?」って聞いたら、案の定スクアーロから、って答えで、おれはアゴが外れるかと思った。でも、それだけならいいんだ別に。スクアーロが乙女趣味でもそれはそれでいいよ別に。人は見かけによらないなあって思うだけだよ。(あんまり考えたくないけど!) だけど!よくよく聞いたらあの鮫の奴、昨日の夜そのエプロン持って山本の部屋に押しかけて、『服脱いでそれ着ろ』って渡したらしいんだ。 ――何ていうかもう、おれはショックと怒りで目の前が白くなったり黒くなったりする気分だった。黒曜センターやリング戦で山本がケガした時と同じくらい、いやひょっとしたらそれよりずっと、山本をいろんなことに巻き込んできたのを後悔した。スクアーロがそんなド変態だったなんて…! 一体おれの親友に何してんだよ!つーか、何させる気だよ!!マジメに真剣に山本のこと好きだと思ってたから、おれは応援してたのに! 山本は山本で「イタリアでは白いエプロンってなんか意味あんのかなー」とかのんきなこと言ってるし。絶対それには意味とかメッセージないってば!あるのは下心だけだってば!ああもう、先週のおれの大バカ…! とにかくもう、後悔したってはじまらない。何とかして山本の目を覚まさせるとか、スクアーロの心根を入れ替えさせるとかしなきゃ! 5月23日(水) くもり時々雨 昨日に引き続いて、山本がまた学校に変なものを持ってきた。 ヘアバンドに猫の耳がくっついてるやつと、猫の手の形をした手袋と、猫のしっぽのセット。スクアーロが昨夜また山本のとこに来て、『これ付けろ』と押し付けたらしい。 「付けたの?」って聞いたらあっさりと「付けたよ」って答えられて、本気で倒れそうになった。そういや外国ってそういうお祭りあるよな!と山本は何だか楽しそうだった。 …おれ、死ぬ気弾も死ぬ気丸も無しで死ぬ気になれそうな気がしてきた。 5月25日(金) 晴れ スクアーロと山本をどうにかしたいって思ってはいるんだけど、なかなか方法が思いつかなくて困ってる。 獄寺君にも事情を話して協力してもらおうって思ったんだけど、その話をしたら獄寺君はすごくマジメな顔をして「十代目、野球馬鹿ごときにそんなご配慮は不要です。こういうことに首を突っ込んでもロクなこと無いですよ!やめときましょう!」って逆に説得されそうになった。何だかすごく真に迫ってたけど、獄寺君何か昔そういうことあったのかな…。ビアンキがらみで何かあったりしたのかなあ。 獄寺君はそんな感じで無理っぽいし、かといってリボーンに相談したら何かまたやっかいなことになりそうだし…。どうしようかなって悩んでるところに、当の山本から追い討ちみたいな話を聞いた。何でも、今度の日曜日にスクアーロと山本と二人で遊園地に行くんだって。山本いわく、デートなんだって。 あーもー!何だか二人、着実にお付き合いを深めてるよ!嬉しそうにうきうきしてる山本を見てると、ほんとは良かったねって喜んであげたいところなんだけど、とてもそんな気分にはなれないよ…。よくわかってない内に、またとんでもないことされたり、ひどい目に合わされたりしちゃったらと思うと、やっぱり親友として見過ごしてらんない。 一体どうしたらいいんだろ…。 5月27日(日) 晴れのちくもり 明日あの二人がデートなんだよな、山本大丈夫かな何もされないかなとか、そんなこと考えながら寝たら朝七時に目が覚めてしまった。日曜日なのに…。二度寝もできそうもなくってベッドの上でごろごろしてたら、先に起きてたらしいリボーンに「そんなに気になるなら、肝据えて自分の目で確かめて来い」って背中を思い切けっとばされた。すごく痛かったけど、なんかちょっと目が覚めた。いろんな意味で。(ていうか、やっぱりリボーンはデートのこと知ってたんだな…さすがだ) 結局リボーンに乗せられちゃった形になったけど、その勢いで着替えて外に飛び出そうとして、そこで思いついて獄寺君も誘ってみた。やっぱり遊園地に一人って寂しいし、目的はともかくせっかく遊園地なんだし! ……で、獄寺君も昨日あんなこと言ってた割には、あっさりOKしてくれた。「十代目がそこまでするなら!」とやたら繰り返してたけど、なんだかんだ言ってやっぱり山本のこと気になってたんだろうな。 そんなこんなで、二人で向かった遊園地はそこそこ混んでて、山本たちを見つけるのにはちょっと苦労した。最初スクアーロの黒いコートを目印にして探してたら全然見つからなくて、ようやく見つけたスクアーロはジーンズと白いシャツというすっごく普通のカッコをして、髪も後ろで結んでた。あれじゃ見つからないわけだよな…。考えてみればいくら常識無さそうなヴァリアーでも、あのカッコのまま遊園地なんて来るわけないか。 探偵みたいに後をつけながらこっそり見てたら、二人はふつーに仲良さそうに射的のアトラクションやったり、バッティングセンター入ったり、ほんとふつーに楽しんでるみたいで胸をなでおろした。お化け屋敷入ったときはちょっと緊張したんだけど(おれたちが緊張してどうするんだろ…)、なんか山本は爆笑して、スクアーロはムスっとして出てきたんで、きっと心配してるようなことは何もなかったんだと思う。 結局そのまま夕方になって、二人はもう帰るのか出口の方に向かった。獄寺君と「なんかおれたち心配しすぎたかな」「十代目がお優しすぎるんですよ」ってそんなこと話しながらおれ達もそろそろ帰ろうか、と思ってたら、視界のすみっこで二人が足を止めて、観覧車のほうに向かうのが見えてぎょっとした。いや!デートの締めくくりとしてお約束ではあるんだけど…。(そう、忘れそうだったけどデートなんだよなあ) まあ今日一日何もなかったみたいだし、とそれでも安心して見送ったんだけど。山本たちが乗ってるボックスが一番上に差しかかったあたりで、おれたちは異常に気が付いた。観覧車がぴくりとも動かなくなったんだ。まさかと思ってたら係員があわてだして、電気関係でなんかトラブルが起きて観覧車が止まったことをアナウンスし出した。 思わず獄寺君と顔を見合わせて、てっぺんの、山本たちがいるはずのボックスをじーっと見つめちゃったりしたんだけど…。もちろん中の様子なんてわかるわけもないし。まあすぐ直るよね、すぐ動くよねって思ってずっと待ってても、観覧車はぴくりとも動き出す気配を見せなかった。 獄寺君に「もう帰りましょうよ!」って何度か言われて生返事を返しながら、(やっぱり二人が気になるし)(いや別に何があるってわけじゃないけどそれでも)とか自分に言い聞かせながら、結局待つ事一時間半。ようやくまた動き出した観覧車から出てきたスクアーロと山本を見て、おれはぎょっとした。 出てきた二人の様子は、超直感なんてなくてもすぐ分かるぐらい、あきらかにどこか今までと違ってた。放ってる空気が桃色というか花畑みたいというか、絶対中でなんかあっただろ!って感じ。スクアーロが山本を支えるみたいに、肩抱くみたいにしちゃったりして! 山本も堂々とそれに甘えちゃったりして!! 獄寺君もその空気を感じたらしくって、なんか二人して無言になってどちらともなく「…帰ろっか。」となった。そのまま帰り道でも何となく無言で、まともな会話はおれがぽつりと言った「……獄寺くんが正しかったのかも。ごめんね」って言葉と、獄寺君の「とんでもないです、そう言って頂けるだけで光栄です」って返事だけだった。なんかもう、馬に蹴られてっていうのかな?こういうの。別に邪魔しようと思ったわけじゃないんだけどな…。 でもなあ、やっぱり気になる。あの中で一体何が…ってあーだめだめ!何考えてるんだおれ! もう、なんか頭痛くなってきたし。今日は早めに寝よう。 5月28日(月) 晴れ 昨夜夜風にじっと吹かれてたせいか、それともひょっとしたら心労のせいかもしんない。久しぶりに風邪をひいて学校を休んだ。 ベッドの中で昨日のこと思い出してうがー!となってたりしてたら、当の本人の山本がお見舞いに来てくれてちょっとフクザツな気分になった。いや!もちろん嬉しかったけど。どうも山本は獄寺君に『今日十代目がお休みなのは全てお前のせいだぞ!』みたいなことを言われたらしく、それを気にして「オレのせいなのか?何かしたかごめんな?」と心配そうに謝ってくれた。おれは笑って「そんな、山本のせいじゃないよ!」って言ったんだけど、ちょっと笑顔が引きつってたかもしれない… で、やっぱり昨日観覧車で何があったのかとかもちろん聞くこともできないし、でも気になって仕方ないし。それでおれは、とりあえず絶対聞いとかなきゃいけないひとつだけを、こっそり山本に聞いててみた。 「山本、スクアーロのこと好き?」 「ん、大好き!」 …弾んだその声とその笑顔がやっぱり最高に幸せそうで、おれは結局、『まあいいか』と思ってしまったのだった。 |
2007夏発行・スク山アンソロ様への投稿物に加筆訂正。
スク山のお付き合い観察日記。綱吉視点
マーモン視点とセットになっております。
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