いつも賑やかな沢田家のふたりの子供が、いつになく居間で静かに何かに夢中になっているのに気付いて、奈々は洗濯物を干す手をとめて、ひょいと家の中をのぞいた。
ソファの前にあるガラス張りのローテーブルの上に広げられた何枚かの大きな画用紙。ランボとイーピンの二人は珍しく、本当に珍しく黙々と、クレヨンを手にしてその画用紙に向かっていた。
絵を書いているにしては余白が多い。不思議に思いながら空になった洗濯籠を手にテーブルに歩み寄り、そして描かれている「たんじょうび おめでとう」の文字と、野球のバットとボールの形をしたものに気がついて、「あら」と奈々は微笑んだ。よくこの家を訪れてくれる、ツナと仲良しの寿司屋の息子の屈託無い笑顔が頭を過ぎる。
「山本君、お誕生日なのね」
「うん!」
「是!」
にぱっとした笑顔が奈々を仰ぎ見た。目を輝かせて二人は口々に報告する。
「ツナがぷれぜんとするって言ってたんだもんね、ランボさんたちも負けないんだもんね!ランボさんたちの勝ちだもんね!」
「我出了的方案!! …媽媽、山本、感到喜悦?」
「もちろんよー! 絶対喜ぶわ」
えへへ、と顔を見合わせて満足げに二人は笑い、ランボが「ママンも!」とエプロンを引っ張った。イーピンから差し出されたピンク色のクレヨンを「ありがとう」と受け取って、奈々は画用紙にゆっくりとその先端を滑らせる。
少年の明るい笑顔が頭に浮かぶ。少年のことを話すときの、息子の嬉しげな表情も浮かぶ。彼が家に来るようになったあたりから、息子の表情は目に見えて生き生きとしたものに変わってきた。ツッ君と仲良くしてくれて、笑顔にしてくれてありがとう。そしてあなたが、それからもその笑顔を見せてくれますように。この一年、幸せに過ごして、また新しい誕生日を迎えられますように。――そんな思いを込めて、メッセージを綴る。
できた! とピースサインをすれば、子供たちはきゃあきゃあとはしゃいで飛び跳ねた。二人の頬についたクレヨンの汚れを拭いてやりながら、優しく奈々は微笑んだ。

「あとでリボンを持ってくるわ。可愛く飾ってあげましょう?」


――きっとあの子には、優しく澄んだ青い色が良く似合うだろう。

















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