「……今朝の違反者の名簿をくれ」
そう手元の資料に目を落としたままそう呟くと、傍らでその資料の整頓をしていた草壁が素早く寄り、黒皮の表紙のノートを雲雀に手渡した。月末も近い。そろそろ、月規定の違反回数を超える者が現れる頃合だ。
ぱかりとノートを開いて、一年の欄から順に目を走らせていく。時折それが静止するのは、違反回数を超えた生徒の横に黒丸をつけているからだ。程度に応じて後日、担任から注意や放課後に校内各所の清掃、部活動の自粛などが言い渡されることになる。
しばらく続くペンの音と紙を捲る音、それがふと止まる。名簿は2-A、見知った名前がいくつか並んでいるページに来ていた。そのうちのひとつが、規定回数を今日で越えている。
――山本武、ネクタイ着用忘れ。
全く懲りない人間だと、自然、眉間に皺が寄る。ネクタイ未着用自体は大した違反ではないが、山本の常習犯ぶりは4ヶ月連続規定回数越えと、そろそろ目に余るものだ。先月は担任からの注意ですませたのだが、今回はそうもいかないだろう。
そろそろ厳しい処分を下しておくべきだろうか。そうつらつらと考えながら黒丸をつけようして、ふと情報欄に目が止まった。住所と並んで書かれている誕生日、その日付が明日の日付をさしている。
かつん、と、ペンの先がその「24」の上で止まった。
「……ふうん」
少し考えるように首をかしげたのに気付いて、目ざとく草壁が「どうかしましたか」と声をかけてくる。
「…いや、何でもないよ」
そう答えながら、雲雀は静かにペンを赤いものに持ち替える。そして違反チェックの上にすっと斜線をひいた。
――無効、の意。
「まあ、誕生日プレゼントだね」
「……は?」
今度は答えることはせず、校庭に視線を向ける。今は人気がないが、あと数時間もすれば部活動をする生徒で一杯になるだろう校庭が、この部屋からはよく見える。
その中の彼を偶に目で追う自分がいる。

(君の野球しているところを眺めるのは、嫌いじゃないからね)

















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