濃紺の空に浮かんだ十五夜の月。太陽とは違った静かな光で照らされた眼下の景色は、昼間とはまるで違う印象を見る者に与える。 月の光が床に零れ落ちる音まで聞こえそうなほど、しんと静まりかえったガーデン。 その静謐な空気を、ゼルは大きく深呼吸した。
腕の時計は、0:00ちょうどを指している。 微かに吹く風に、無雑作に下ろした髪を弄らせながら、空を仰ぎ見た。
目に映るのは白い月。何時もと変わらない月。
(・・・・きれい・・・、だなあ) サイファーも今頃、遠く離れた地で同じ月を見ている。 たったそれだけのことに此れ程安心する自分に、ゼルはふっと苦笑を漏らした。女々しいと言われても仕方ない。自分の気持ちに嘘はつけない。 「・・・あいつ、元気かな」 ぽつりと呟いて、こつん、とデッキの桟に頭を預ける。冷たい金属の感触が、肌に気持ち良かった。
Rrrrrr・・・
ベルが鳴った。 はっと我に返って、胸ポケットに突っ込んだ携帯の着信を見る。発信者は・・・
『Seifer』
どきん、と胸が高鳴るのが自分で解った。 そっと通話ボタンを押す。
「・・・・もしもし?」 『よォ、チキン』
いつもの物言い。 隣に居るなら食って掛かる所なのに、離れているとそれすら愛しく聞こえるのは、どうしてなのだろう。
「・・・月、見てる?」 恐る恐る尋ねてみた問いに、 『・・・・ああ。』 そう、無愛想な答が返されて、頬が緩んだ。
「キレーだな」 『――そうだな。』 「なんかさ、すっごいデカい気がして、落ちて来そうじゃねえ?」 『チキンヤローだなお前。』 「なっ、何でそーなるんだよっ!」 『落ちそーでこえぇなんて思ってんのか?』 「思ってねーよ!」
小さく押し殺した笑い声が受話器から漏れてくる。
他愛の無い言い合いが嬉しい。 遠い場所に居るのに、すぐ近くにサイファーを感じる気がして、嬉しい。
お互いの声が、暖かい。
「――サイファー。」 『・・・ん?』 「・・・ケガ、すんなよな」 『――たりめーだろ』 「・・・無茶も、すんなよな」 『――判ってるって、ゼル』
名前を呼ばれて、ほわり、と心に灯りが点る。
『こっちはしばらく晴れだしよ。』 「うん」 『もし月が出なくても電話するからよ、寂しがってんじゃねーよ。』 「・・・ばーか」
別に寂しくない。 そう口に出そうとしたのを、ぐっと呑み込んだ。 今ぐらいは素直でいよう。お互い、離れた場所に居る分、素直でいられる今ぐらいは。
「――明日、早いのか?」 『8:00集合だ。』 「気ぃつけてな」 『ああ』
・・・Good Night.
小さく声が重なった。
END |