「これで完成、と」
ふう、と息をつきながら、ゼルは膝に乗せていた大きなかぼちゃを、よいしょと机の上に置いた。
ずっと下を見ていたために首の筋肉はすっかり強張ってしまっていて、まわすとこきこき音がする。体の筋肉をほぐしながら、ゼルは机の上に鎮座しているかぼちゃを満足げに見やった。オレンジ色のかぼちゃは中をくりぬかれ、愛嬌のある三角の目をこちらに向けている。
 
――我ながら、なかなかうまく出来たじゃん。
 
ひとりうんうんと頷いている所に、タイミング良く扉が開き、セルフィがぴょこりと顔を出した。
「ゼル!……あ、出来たんだ〜!」
「おうよ、ばっちしだぜ!」
「さっすが〜〜!」
 
パンとお互いの手を打ち合わせて、二人はえへへ、と笑い合う。
 
「飾り付けももーすぐ完成だし、料理もまま先生のおかげですっごくうまくいったしー!」
「あとはこいつを運んで、年少組が帰ってくるのを待つだけだなっ!」
「ふふっ、みんなお菓子いっぱい貰えたかな〜」
 

   
そう、今日はハロウィンなのだ。
 
 
 
去年までは行われたことの無かった、ガーデンでのハロウィン・パーティー。
嵐のような魔女戦が終息して間も無い中。提案したのは御多分に洩れず、セルフィだった。
『せっかくのハロウィンだもん、何かやろーよ!年少組の子、絶対喜ぶよ〜』
その一言に、いつものようにゼルたち彼女の幼なじみは巻き込まれて。ついでに学園長とイデアまで巻き込んで。「それ所ではない」と最後まで渋っていた教師たちにも、パーティーは何とか認可された。学園長の後押し以上に効果が大きかったのが『年少組の子のため』という大義名分だったが、そこはセルフィ。しっかりと自分たちが楽しむための”夜の部”も用意している。
巻き込まれたゼルたちの方も、いざ行われるとなるとやっぱり気分が高揚して。みんな今日の用意のために、ここ数日ばたばたと慌しい日々を過ごしていた。
 
 
「ハロウィン・パーティーなんて久し振りだなぁ。……ガーデン入学して以来かなあ」
 
机の上の巨大かぼちゃに紐を掛けながら――何しろとんでもなく大きくて、手で持って運ぶのは一苦労だったので――、ゼルがどこかうきうきした声で言った。
答えるセルフィの声も負けず劣らず明るく弾んでいる。
 
「あたしなんてずーっとちっちゃい頃に何度かあったきりだよ〜。……あ。でも石の家では毎年やってたよねえ?」
「やってたやってた!みんなで仮装してさ、で、わざわざ街まで連れてってもらったんだよな?」
「シド先生が船、出してくれてさぁ〜」
 
 
魔女戦争終結後。なるべくGFを使わないように心掛けてはいるものの、まだ影響は残っていて。所々ぼやけている昔の記憶を、2人はお互いに補い合うようにして辿っていった。
――わくわくしながらオレンジ色のかぼちゃでランタンを作って。滅多に無いみんな揃ってのお出かけに、はしゃぎながら家を回って。お菓子をちいさな籠にいっぱいになるぐらいに貰って。……セピア色に染まった思い出が、お互いの話に釣られるように次々と零れ出してくる。
 
 
「仮装も、したよねえ〜」
「えっと、確かセルフィが天使で、アーヴァインがミイラ男で……、俺がヴァンパイアで」
「キスティスとエルお姉ちゃんは魔女でしょ。はんちょがフランケン・シュタインで、もとはんちょが――」
 
 

 
続けようとした会話が、そこでふつりと途切れた。
 
 
 

「……魔女の騎士、だったね…」
「……うん…。」
 
 
木や紙を組み合わせて。工夫を凝らして作った自前の剣を背負って、得意そうに辺り構わず振り回してた。
まま先生を魔女に見立てて、側にいたゼルたちを追っかけ回した。
 
 
 

 
 
「――不思議だね」

ぽつりと、セルフィが呟いた。
 
「…みんな、あの家から一人づつ居なくなって。……離れ離れになって。もう、きっと2度と会えないだろうって薄々気付いてたのに。――なのに」
 
 
 
 
またこうしてみんなで、おんなじ所に集まってきた。
まるで、何かに導かれるみたいに。
 

 
 
「―――奇跡、かな。」
 
その言葉に、驚いたようにセルフィがゼルを見つめ直した。
「……ゼル、ろーまんてぃっく気分?」
「バカ」
苦笑してセルフィを小突く真似をする。
 
「…でも、そうだろ?―― 『奇跡』。しっくりくるだろ。」
「――うん」
 
 
 

使ってしまうと大事なものが安っぽくなりそうだから、ほんとはあまり好きではない言葉。
……だけど、そうとしか言い表せない場合だって、あるのだ。

そう。今の自分たちのように。
 
 
 

 

 
(……また、会えた)

 
 
楽しいことばかりでは無かったけれど。
辛いことだって、沢山あったけれど。
 
   
   
   
 
   
   
   
   
 


「――サイファー、いつ戻ってくんのかな」

「……帰ってくるよ。きっと。もうすぐ。」

「………そうだな。」

「せっかくまた会えたんだもん。―― もう、誰にも欠けて欲しくないよね。」

「――うん」

「……クリスマスパーティーは、みんなでしようね。」

「―――うん…」
 
 
 
 

 
 
 

 帰ってくる。必ず。
 
 
 待っているから。
 
   
 
   
 

 
 
   


 そのための場所を、俺たちはずっと、守り続けるから。
 
 

 
 

 
 
                                                 END  





セルフィも大好きです。

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